大英帝国と奴隷制度

英国を巡る奴隷制度の賠償問題は、主にカリブ海諸国(CARICOM)を中心とした要求で、大西洋横断奴隷貿易と植民地支配の歴史的責任を問うもの。英国政府は一貫して金銭的賠償を拒否している。歴史的背景英国は17〜19世紀に大西洋横断奴隷貿易の主要国で、約300万人のアフリカ人をカリブ海地域に強制移送。カリブ海植民地で砂糖などのプランテーション経済を支え、富を蓄積。 

1807年の奴隷貿易法で英国船による貿易を禁止。1833年の奴隷廃止法で帝国全体の奴隷制を廃止。

  • 補償金:廃止時に奴隷所有者に対し約2000万ポンド(当時の政府歳出の約40%)を支払う。奴隷本人やその子孫には支払われず、この債務の償還は2015年まで続いた。今日の価値で数十億〜数百億ポンド規模。
  • 廃止後英国王立海軍は西アフリカ戦隊などが約60年にわたり奴隷船を拿捕し、推定15万人以上を解放。外交的にも他国に貿易禁止を働きかけ、他国に比べて突出したコストを負担
現在の要求内容(CARICOM中心)2013年に設立されたCARICOM Reparations Commissionが2026年に改訂版「10ポイント・プラン(マニフェスト)」が承認。
  • 正式な全面謝罪
  • 教育・公衆衛生・心理的リハビリテーション
  • 文化遺産の返還・復元
  • 先住民開発プログラム
  • 債務帳消し・金銭的補償
  • 技術移転・起業支援
  • 脱植民地化(英国海外領土の返還などを含む場合あり)
これらは「人道に対する犯罪」としての奴隷制の残存影響(低開発、識字率、健康格差など)への修復正義として位置づけられます。一部ではバルバドスのミア・モットリー首相がかつて数兆ポンド規模を言及するなど、巨額要求も見られる。アフリカ諸国との連携も進み、国連決議(2026年)で奴隷制を「最も重大な人道に対する犯罪」と位置づける動きもあった。英国は棄権。日本も棄権し52カ国が棄権。賛成派123カ国。反対が3カ国(米・イスラエル・アルゼンチン)英国政府の立場歴代政府(保守・労働とも)は「賠償は支払わない」と明確に拒否。2026年11月の英連邦首脳会議(CHOGM、アンティグア・バーブーダ)に向け、正式謝罪の可能性を検討し、「構造化された対話」を提案。4000万ポンドの援助や債務再編の議論を提示していますが、CARICOM側はこれを「謝罪だけでは不十分」「賠償を除外した対話は受け入れられない」と拒絶しています。 法的には、国際法の「時際法」(当時の法で合法だった行為に遡及的義務はない)を根拠にします。気候変動に似た途上国の動き。自分たちが先進国の犠牲者であり、金銭による賠償を国連や国際法を使って正当化しようとしている。100歩譲って金銭で現在の途上国の問題が解決するのか、というとそうではないことを明確だ。
さらに、先進国から金をむしり取ろうとする動きの背後には先進国の国際法学者たちがいることを忘れてはならない。奴隷制の件で支援している先進国の専門家には下記のような人がいる。
  • Bell Ribeiro-Addy MP(労働党・Clapham and Brixton Hill選出)
    最も政治的に活発な支持者の一人。All-Party Parliamentary Group on Afrikan Reparations(アフリカ人賠償に関する超党派議員グループ)の議長を務め、毎年UK Reparations Conferenceを主催。正式謝罪、真実究明委員会(All-Party Parliamentary Commission of Inquiry for Truth and Reparatory Justice)、債務免除や開発投資を含む「修復的正義」を強く主張しています。
  • Professor Kehinde Andrews(Birmingham City University)
    英国初のBlack Studies教授。大西洋奴隷貿易と植民地主義が現代の不平等の根幹だと位置づけ、賠償を「道徳的・歴史的必然」と主張。メディアやポッドキャストで頻繁に発言し、Church of Englandの賠償プログラムなども不十分だと批判しています。
  • Professor Alan Lester(University of Sussex・歴史地理学)
    大西洋奴隷貿易に関する英国の賠償問題を詳細に論じた講演を行い、奴隷制廃止後の補償が所有者側にしか支払われなかった点や、反奴隷制運動の限界を指摘しつつ、修復的債務の必要性を議論しています。
  • Jacqueline McKenzie(人権弁護士・Leigh Day所属)
    弁護士事務所として大西洋奴隷貿易の賠償請求を調査・推進。CARICOM諸国への助言や法的根拠の検討に関与し、「議論の時が来た」と公に述べています。
  • その他の学術・活動家
    • Catherine Hall(UCL・歴史家):人種と「repair(修復)」をテーマに研究。
    • Robert Beckford(University of Winchester・教授):ジャマイカ系の個人史も踏まえ、賠償を支持。
    • Olivette Otele(SOASなど):奴隷制の記憶とレガシーに関する歴史家。
    • Esther Xosei や Nicola Frith などの活動家・学者:草の根のAfrikan Reparations運動を主導
  • 大学(Glasgow大学の£20mプログラム、Bristol大学など)や英国国教会(Church Commissionersの£100m reparative fund)など、機関レベルでの「reparative action」も進んでいますが、これらは国家賠償とは区別されるケースが多い。

そして国際法の専門家にはジュリアン・アサンジを支援したEdward Fitzgerald KC(エドワード・フィッツジェラルド)がいる。 彼はDoughty Street Chambers所属の著名な人権・刑事・引渡関連のバリスター。Fitzgeraldは「当時の英普通法下で合法だったとは考えにくい」「George II時代の制定法などから違法性があった」と主張し、国際法の時際法の壁を正面から崩そうとする戦略を取っている。CARICOM諸国の支持も得ている。 

さらに気になるのは賠償金の計算をした米国のコンサルタント会社の存在だ。

米国(ボストンなど)に拠点を置く経済コンサルティング会社Brattle Group(ブラットル・グループ)で、2023年に「大西洋横断奴隷制度(Transatlantic Chattel Slavery)に対する賠償の定量化」に関する報告書を公表。主な内容
  • 全体額: 西側諸国が負う総額を約1,000億〜1,310億ドル(1京5,870兆円〜2京790兆円)と算出。
  • 英国分: 約240億ドル(約3兆8,088億円)
  • 内訳の主な要素:失われた賃金、自由の喪失、人身傷害、精神的苦痛・苦悩、ジェンダーに基づく暴力など。奴隷制廃止後の継続的被害(富の格差など)
  • 対象はカリブ海・アメリカ大陸の複数の国で、英国の場合はジャマイカやバルバドスなどへの割り当てが大きいとされています。
この報告書は、国際司法裁判所(ICJ)判事のPatrick Robinson氏らが関与したAmerican Society of International Law(ASIL)と西インド諸島大学(University of the West Indies)のシンポジウムを背景に、Brattle Groupの経済専門家(Coleman Bazelon、Alberto Vargasら)が作成。 

Patrick RobinsonとEdward Fitzgerald KC

 

読書メモ『武士とは何か』呉座勇一著

 

拙著『インド太平洋開拓史』から

拙著『インド太平洋開拓史』を執筆している時に、軽く触れる予定であった田口卯吉の南洋進出に関する事実関係を資料を辿って確認している中で明治の植民、南洋進出はほぼ全員も「元サムライ」であることがわかった。そこで「サムライの南進」というタイトルにして書き進めた。それ以来「サムライ」と植民に関心を持つようになった。

仕事を失ったサムライがどうなったのかを研究しているのは落合弘樹教授で『秩禄処分 明治維新と武家の解体』あり名著である。これもブログで取り上げたい。

そもそも「サムライ」とはなんだったのか?という素朴な疑問を持つ中で『応仁の乱』がベストセラーになった呉座勇一先生がYouTubeで積極的に、しかもパンピーを対象に情報発信をしているのを最近見つけ。『武士とは何か』を出版されていることを知った。

各武将の有名なセリフを取り上げ、それはほとんど後日の創作であることや、その背景と実際はどうであったのかが書かれている。源義家から始まって伊達政宗までの33人。新渡戸が描いた武士はその後の大平の世の中の江戸時代のサムライである。

歴史学はあまり興味がないが、一に文献二に文献なのだ。その文献の信憑性も二転三転する。呉座先生自身もこの本の中で訂正しているくらいだ。だから面白いであろう。

最近、京都の綾部を訪ね、山家藩の谷氏、飛騨古川を訪ね高山藩の金森長近の存在を知った。二人とも信長、秀吉、家康に仕えた。政権交代の中でうまく立ち振る舞ったのである。

「武力」を基盤とする「サムライ」だが高度な政治、パワーバランスの能力は明治以降の日本の植民政策にも活用されたと思う。

『台灣文化志』伊能嘉矩著読書メモ【休憩】

私の読書メモなど誰も読んでいないと思うが、長らく私の机に鎮座している上中下各巻10センチはありそうな伊能嘉矩の『台灣文化志』の本は一度同志社図書館に返却することとした。

多分9月頃に再開できると思う。

この2日間でベルツと鳥居龍蔵の資料を整理だけしたい。

2026年冬の台湾訪問は大きな課題を私に示した。

『台灣文化志』伊能嘉矩著読書メモ(2)

伊能嘉矩の『台灣文化志』の存在を知ったのは実はかなり昔である。矢内原忠雄の南洋群島の研究にこの本の事が書かれている。そういえば両書の目次立てが似ているような気がする。

上巻、第一篇の前にある「伊能先生小傳」。門下生、板澤武雄の18頁にわたる文章である。

 

伊能嘉矩は3歳の時に母をなくし、祖父母に育てられた。父親は医学を学びに遠野を離れていたのだ。嘉矩も医学を目指した時期があったようだが、文学を志し、大日本教育新聞編集長になり国の教育政策にも提言をし注目を浴びた。学生の時は軍隊式師範学校に反発して退学処分を受ける好漢だったのだ。

坪井正五郎との出会いが人類学への道を示した。日本民族学に「オシラ神」を紹介したことは重要なんだそうだ。日本では中国語、韓国語、アイヌ語を学んだ。台湾では原住民の言葉とマレイ語を学んでいる。

台湾に滞在したのは1895年から1906年の11年で、恒例の祖父と台湾研究を文書にするため帰国。1925年に台湾滞在中に感染したマラリアが再発し58歳の若さで亡くなっている。

同じ岩手の後藤新平、新渡戸稲造との接点を知りたい。

 

『台灣文化志』伊能嘉矩著読書メモ(1)

2026年1月の台湾訪問はまさにOpen eyesの経験だった。その中でも太平洋と台湾を繋ぐオーストロネシア語族、即ち台湾原住民の研究を本格的に開始したのが3人の日本人であることを現在の台湾研究者が認めている点だ。その3人とは鳥居龍蔵、伊能嘉矩、森丑之助

3人とも濃いキャラクターを持っている。鳥居龍蔵に関しては京都からバスで3時間かけて徳島の彼の博物館を訪ねた。伊能嘉矩を遠野に訪ねる機会が近々ありそうなので、以前から机に鎮座している『台灣文化志』を読み進めたい。

上中下と3巻ある。

1925年伊能嘉矩没後1928年(昭和3年)に門下生や知友の手により東京・刀江書院から日文原書として刊行され、私の手元にあるのは同志社図書館に所蔵されている同じ刀江書院の復刻版(1965年、昭和40年刊)である。
 
2017年に中文全新審定版(大家出版、陳偉智審訂)が出版されている。
 
この大著の読み方だが、原住民に関する章は下巻の第15篇の番政沿革であろう。上巻には第一篇の前に「伊能先生小傳」という伊能嘉矩を紹介する門下生、板澤武雄の18頁にわたる文章がある。まずはそこから読み進めたい。
 

「台湾近代史」と4人の日本人 後藤新平・岡松参太郎・新渡戸稲造・矢内原忠雄 春山明哲著

https://www.taih.ntnu.edu.tw/wp-content/uploads/2020/07/%E6%98%A5%E5%B1%B1%E6%98%8E%E5%93%B2%EF%BC%8C%E3%80%88%E3%80%8C%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E8%BF%91%E4%BB%A3%E5%8F%B2%E3%80%8D%E3%81%A84%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%EF%BC%8D%E5%BE%8C%E8%97%A4%E6%96%B0%E5%B9%B3%EF%BC%8E%E5%B2%A1%E6%9D%BE%E5%8F%83%E5%A4%AA%E9%83%8E%EF%BC%8E%E6%96%B0%E6%B8%A1%E6%88%B6%E7%A8%BB%E9%80%A0%EF%BC%8E%E7%9F%A2%E5%85%A7%E5%8E%9F%E5%BF%A0%E9%9B%84%E3%80%89%EF%BC%8C%E9%A0%81227-256%E3%80%82.pdf

朗読:「植民者としての日本」JAPAN AS A COLONIZER

台湾出張を前に思い出し新渡戸の米国での講演記録。英文を機械訳して以前ブログにアップしたが、コメントしながら朗読しました。


インド太平洋ポッドカフェ☕️「植民者としての日本」新渡戸稲造講演記録🇯🇵🇹🇼(1)

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