中島岳志著『アジア主義』ー読書メモ

公私にわたり團家との関わりが多少あった時期があった。血盟団事件は最初関心がなかったのだが急に知りたくなって中島岳志さんの本を読んだ記憶がある。

その書きぶりからてっきりジャーナリストだと思っていたが、中島氏は学者さんであった。『アジア主義』という本も出されておりキンドルで購入。この数日斜め読みさせていただいた。

はっきり言うとガッカリだった。学者の記述であれば、と期待していたし、2017年から私自身がインド太平洋構想に関わるようになって「アジア主義」関連文献も色々と読み漁ってきたからだ。

それでも、三輪公忠氏が書いているが「黄禍」を導いた「白禍」論の詳細を知る事ができた。単純なまでの西洋批判、西洋嫌いの様子がわかる。それはソロモン諸島の君主が未だにエリザベス女王であることを「酷い」「英国の押しけ」と信じているマジョリティの日本人の思考に残っているのではないだろうか。

玄洋社を中心としたアジア主義の詳細が書かれていて、そこに日本人の「白禍」論がどのように展開されたかを窺い知ることができる。他方少しでも国際社会を知っていればこんな認識は持たないのではとも思った。もちかして国際協調主義の新渡戸や矢内原はこのような反西洋の動きに学術的な反論を試みたのはないかと思った。玄洋社と安場保和を通じてつながりのある後藤新平も2度ほど脇役で本の中に出てくるが後藤のアジア主義の議論は取り上げられていない。中島氏は後藤新平アジア主義を知らないのか、もしくはわざと外したのだろうか?

もちろん西洋の植民によって搾取されたり殺戮された地域もあるが、スパイシーアイランドのモルッカ諸島の小さな島、ティドレのサルタンがオランダを利用してパプアまで勢力範囲を広げた話を拙著『インド太平洋開拓史』に書いたが、植民される側もしたたかに西洋人たちの植民を利用したケースがあるし、西洋の植民がなかった時が平和で幸福な生活を送れていたわけではない。これも拙著にフィジーの例を書いた。

中島岳志著『アジア主義』には帝国主義、植民主義等々の言葉が出てくるが一切定義が議論されていないのだ。誰もしないのであればいつか自分が書きたい、と思うようになった。

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スパイシーアイランドと英国のスパイ活動をめぐる話が書かれています。