”Tropics of Savagery” - Robert Thomas Tierney 桃太郎と南進(追記あり)

新渡戸の桃太郎、日本の植民政策とからめて議論されている。

しかも日本のマレイ人起源、即ちオーストロネシア語族起源を説いている。

 

「桃太郎の昔噺」ー新渡戸の植民政策を見る - やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

 

 

桃太郎 ー  福沢諭吉も書いている。

ポストコロニアル研究でこの桃太郎を対象とした研究は少ないそうだ。イリノイ大学のRobert Thomas Tierney博士が研究し、本を出している。多分博士論文なのだろう。

Tropics of savagery. . Berkeley, CA: University of California press, 2010.

 

此の本の中に、新渡戸と芥川の桃太郎の話を取り上げて分析している章がある。

"The Adventure of Momotaro in the South Seas: Folklore, Colonial Policy, Parody"

この章、ラピタ研究、即ちオーストロネシア語族の世界的権威(英国女王から勲章もらってるし、ここは敵に塩を送る余裕を見せたい。)である愚夫といっしょに読んでしまった。

桃太郎は、人によって、その時の状況によって、さまざまに読み解かれ、プロパガンダに利用されている、という話であると思う。

気になったのは、新渡戸が日本人(他の新渡戸の文章から神武の事だと当方は想像している)がマレイ族、即ちオーストロネシア語族である事を、桃太郎の海洋民族的な部分(川から流れ着いたり、鬼が島が出てく来たり)で分析し、さらに、鳥居龍蔵や、ボアズ、ベルツ、その他当時の一流の人類学者の理論を根拠としているのに、Tierney博士はこれは信じられない、と一刀両断している部分だ。

もう一つ気になった箇所は、オーストロネシア語族と日本の部落、鳥居龍蔵の件である。これは鳥居龍蔵に関するペーパーで目にした記憶があるが、込み入った話でよく理解できないでいた。鳥居龍蔵は日本の部落の人類学的研究をして彼らがオーストロネシア語族である、という説を立てた(のだと思う)。これに当時部落問題活動家が文句をつけたとういう話であったと思う。さらに、神武、即ち天皇家の起源がオーストロネシア語族だったのであれば、日本の部落と天皇家が繋がるわけで、学問的研究が、一気に政治的案件へとつながる。鳥居龍蔵が、後この研究に一切触れなくなった、とも書いてあった、と記憶する。

現在わかっているオーストロネシア語族の海洋技術を知っていると、此の問題は別の解釈もできるような気がする。あくまで素人考えです。

オーストロネシア語族は3千年前辺りから、即ち神武東征の数百年前(若しくは千年前)から数千キロの海洋をヒョイヒョイと移動、移民、植民していたのである。だから神武の家族か祖先が、じわじわと島伝いに「海上の道」を辿って来たのではなく、台湾・東南アジアのどこかからヒョイと九州に来た可能性もあるし、その後も数十人とかのグループでヒョイ、ヒョイと日本のどこかの浜に来て、部落を作った可能性もあるのではないだろうか?

部落問題、全く無知なので余り書かない方がいいのかもしれないが、昔は違いだけであって、差別ではなかった、とこれが松岡正剛さんの『フラジャイル』にあった記憶があるが、この記憶は定かでない。

追記:鳥居龍蔵部落民族の調査を扱った論文

「20 世紀初頭におけるアカデミズムと部落問題認識 ─ 鳥居龍蔵の日本人種論と被差別部落民調査の検討から ─」関口寛

https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/15028/007000910005.pdf

142-143頁から引用「1920 年代以後,鳥居の関心は固有日本人の起源とみなした満州や蒙古地方の調査研究に傾注する。部落調査についてはかつては情熱的に取り組み,マスコミ上でも著名となったにも関わらず,中断し,封印してしまう。その理由については明確には分からないものの,本稿でもみたように調査対象である被差別部落民からの抗議のほか,全国水平社の活動が影響した可能性も考えられよう。」